全日本ラリー選手権第5戦 ラリー・イン・シリベシ
開催日時:7月16~18日
開催場所:北海道後志地方
スペシャルステージ本数:14本
スペシャルステージ総距離:101.34km
ラリー総距離:2デイ471.57km
SS路面:グラベル(未舗装路)
SS路面状況:ドライ
波乱の展開、大嶋治夫が初の総合優勝を飾る
2010年全日本ラリー選手権の前半戦最後のラリーとなる第5戦は、2008年まで開催されてきた「ラリーイン赤井川」のホストタウンを羊蹄山を臨む倶知安町に移し、名前も「ラリーイン後志」と変えて開催された。長年使用して来たキロロ周辺の林道に加え、ニセコ方面の林道や新たに造成されたギャラリーSSも設定され、コンパクトなラリーからよりスケール感の大きいラリーに向けて変わりつつあるようだ。チャンピオンを争う選手にとってはシリーズの行方を大きく左右するこのラリー、SSはオールグラベルの総距離101.34km、ポイント係数は2となる。
ラリーは金曜日の早朝からレキ、土曜日の朝にスタート。デイ1はSS8本、63.80kmを走行、デイ2はSS6本、37.54kmを走行する設定だ。後志支庁は週半ばからまとまった雨が降らず、デイ1も晴れ。天気予報ではデイ2はウェットコンディションも予想されたが、夜の雨は明け方までに上がり、タイヤ選択に悩むことはほとんどなかったようだ。
JN4クラスは18台のエントリーで出走は16台。グラベル主体の参戦となる岩下英一ランサーエボ9、大嶋治夫ランサーエボ9を含め、レギュラー陣はほとんど顔を揃えた。スタートしたラリー車は10分のリエゾンでSS1「HSP」に向かう。ラリー中に7回も走行することになるこの特設ギャラリーステージは、ミニサーキット「北海道スピードパーク」に隣接する、学校のグラウンドほどの広さの空き地を造成し、土盛で仕切られたタイトコーナーが連続する1.32kmのコースとした特異な設定だ。上位陣は各車ともここを無難に走り、ほとんど差の無い最初のオーダーは奴田原文雄ランサーエボ10、石田正史ランサーエボ10、大嶋となった。
SS2は「ラリーイン赤井川」時代からおなじみの「BROOK TRAIL」10.08km。このSSを終了した時点のオーダーは驚きに値するものだった。ベストタイムで走行したのは大嶋。以下、岩下、福永修ランサーエボ10と続く。勝田範彦GRBはブレーキにトラブルを抱えて大嶋に14.5秒差の5番手、石田はターボトラブルに見舞われ16.4秒差の6番手、奴田原に至ってはバーストで1分以上のビハインドを背負ってしまった。SS3は「KIRORO TRAVERSE」19.18km。ここも大嶋がベストタイム、奴田原がそれに続く。2番手につけていた岩下は「路面に避けきれない大岩が出ていた」と足回りを破損し、約3分のビハインドとなり総合17位、さらに3番手にいた福永はバーストでSS中でのタイヤ交換を余儀なくされ、5分も遅れて総合25位まで順位を下げてしまった。前SSから車両のトラブルが続く勝田と石田はここでもペースを上げられず、2番手は星野博ランサーエボ10となった。SS4は「HSP」。上位陣に順位の変動は無かったが、岩下はフィニッシュ直前にとうとうタイロッドが折れ、リタイアしてしまった。セクション1は大嶋がトップ、36.6秒差で星野、そのすぐ後ろに勝田、石田、約30秒離れて奴田原というオーダーだ。
セクション2はセクション1と同じ4SS、31.90kmの構成。各車ともSS5、3回目の「HSP」を無難にこなし、SS6に向かう。SS2のリピートとなるこのSSはまたも大嶋が2位福永に5秒近い差をつけるベストタイム。さらに奴田原、石田、勝田が僅差で続く。短いリエゾンを挟んでSS7「KIRORO TRAVERSE」。ここは奴田原が2位を約9秒上回るベストタイム、勝田と大嶋がそれに続く。石田は「ようやく車がまともに走るようになったのに」と、15km地点の左コーナーでコースアウトし、側溝から脱出できずリタイアとなった。SS8では順位の変動はなく、トップ大嶋、44.6秒差で勝田、更に16.8秒差で奴田原という順位でオーバーナイトパルクフェルメを迎えた。
夜半の雨は朝までに上がり、デイ2は曇りの天候。セクション3、この日最初のSSは、初めて使用するニセコエリアの林道SS9「LAVENDER」7.20kmだ。先頭スタートとなった大嶋はここで砂利かき役となってしまい、タイムが伸びない。ベストタイムは奴田原、そこに福永、勝田が続き、大嶋はトップから9.2秒も遅れてしまった。しかしトータルでは2番手の勝田になお40秒近いリードを保っており、前日のタイムを考えれば十分なマージンがあるように思えた。SS10は5回目の「HSP」。奴田原が僅差のベストタイムで、大嶋がそれに続く。SS11は3回目となる「KIRORO TRAVERSE」。脱落していくライバルを尻目にここまで順調にタイムを刻んできた大嶋が、ここでとうとうバーストに見舞われた。奴田原はここでもベストタイムで差を大きく縮める。2番手は8.0秒差で勝田、大嶋は奴田原に38.9秒ものビハインドの6番手タイム。トータルの順位は1位大嶋、10.3秒差で勝田、その1.6秒後方に奴田原となった。SS12は6回目の「HSP」。ほんの10秒差となっては、この短いSSでのタイム差も無視するわけにはいかない。ここも奴田原がベスト。2番手は勝田。大嶋との差をそれぞれ1.5秒、0.9秒詰め、じわじわと追い上げる。
最終となるセクション4は2本のSSのみ。SS9の再走と7回目の「HSP」だ。SS9でのタイム差を考えれば、前日からベストタイムを刻み続けている奴田原まで、十分に逆転のチャンスがあるように思えた。しかし、SS9で併催の地方選手権も含め約60台のラリーカーが走った林道は路面が一変していた。そのSS13は「深い轍に気合が入った」と大嶋がSS9の自己タイムを20.3秒も上回る会心のベストタイムでフィニッシュ。勝田との差を13.3秒、奴田原との差を15.9秒まで広げた。残すはSS14、「HSP」のみ。この短いステージは勝田がこのラリー初めてのベストタイムを刻んだが、順位の変動が起ころうはずも無く、大嶋がJN4クラスとしては初優勝、全日本ラリー選手権に総合優勝制度が出来て以来、初の総合優勝を遂げた。2位には勝田、3位には奴田原が入った。
JN3クラスは11台のエントリー。「ラリーイン赤井川」時代はタフな路面を嫌ってなかなか参加台数が伸びなかったこのクラスも、現在シリーズリーダーの香川秀樹インテグラを始め、若槻幸治郎パルサー、田中伸幸ミラージュら主だったメンバーが顔をそろえた。最初の林道SS、SS2が終了した時点で、トップに立ったのは、森博喜セリカだ。しかし森は早くもSS3で車両にダメージを負い、変わって田中がトップに立った。香川はこの林道で燃料タンクが落ちるトラブルに見舞われたものの、しぶとく走りきり2位に付ける。シリーズ2位の若槻はここで大きく遅れ、すでに田中からは2分近く離れている。セクション1終了時のオーダーは田中、香川、松原久ブーンX4だ。
続くセクション2、このクラスも「HSP」では順位の大きな変動はなく、林道ステージに向かう。SS6、田中がここでバーストし、分単位のタイムロスはなかったものの、香川に首位を明け渡してしまう。SS7、「今度はフロアガードが落ちた」という香川が19.18kmで0.1秒ながら僅差のベスト。それを田中が追う。SS8、今度はたった1.32kmで田中が香川を2.6秒も上回り、デイ1を1位田中、1.2秒差の2位香川のオーダーで終えた。セクション1で3位につけていた松原はSS7でコースアウト、代わって森が3位に上がった。
デイ2最初のSS、ここで田中は痛恨のバースト。このSSで香川は田中を再度逆転し、首位に立つ。「これで香川を勢いづかせてしまった」と田中。香川は「HSP」で差を詰められても林道で田中を振り切り、第2戦に続く今期2勝目を挙げた。
JN2クラスは、JN1クラスが不成立のため繰り入れられた1台を含め、6台のエントリー。現在、シリーズポイントで圧倒的にリードしている天野智之ヴィッツを中心にラリーが展開していくことが予想された。セクション1、天野は「セクション1でリアダンパーが壊れてしまった」といいながらも、3本のベストタイムで着実にリードを広げる。セクション2では、追う鷲尾俊一スイフトがSS7で大きく遅れてしまい、代わって2位に上がった畠山と天野の差はすでに2分以上、もう完走することが最大の目標になったはずだ。デイ1の最終サービスでダンパーを交換した天野はデイ2を着実に走りきり、今期3勝目。
<優勝者のコメント>
●JN4優勝ドライバー 大嶋治夫
現役のドライバー相手に勝負できて楽しかった。自分も何かやるだろうと思っていたが、バーストは展開を面白くしようと思ったから(笑)。ハラハラドキドキしながらラリーを最後まで楽しんだ。ありがとうございました。
●JN4優勝コドライバー 井出上達也
ドライバーが泣き言ばかり言うので、なだめるのが大変でした(笑)。追いかけてくるのが現役のチャンピオンたちなので、勝てて本当によかった。
●JN3優勝ドライバー 香川秀樹
ゴールまで行くのが難しいラリーで、JN3クラスの車には路面が厳しく、いつ止まってもおかしくない状況だった。最初のセクションでタンクとタンクガードが落ち、次のセクションではフロアガードが落ち、本当に満身創痍だった。クラブの仲間がサービスに来てくれて、時間内にマシンを直してくれたおかげ、チームで取れた勝利だと思う。雲の上の存在だった田中選手と競り合えたのは非常に刺激的だったが、自分は泣き言ばかり言っていた。そんな中でミス無く、結果的には勝てて良かった。
●JN3優勝コドライバー 船木一祥
道が厳しく、タンクは落とすし、フロアガードは落とすし、しまいには車が道からはみ出した。シリーズを通して大きい一勝で、これはサービスに来てくれた仲間たちのおかげ。
●JN2優勝ドライバー 天野智之
とても疲れた。JN3クラスより更に小さい車で、道が厳しい。セクション1でリアダンパーが壊れてしまい、完走できるかどうか心配だった。燃料の計算間違いもあった。ダンパーは地元で純正新品を手に入れることができ、おかげで完走できた。サービスの鮫島君に感謝。
●JN2優勝コドライバー 井上裕紀子
熱かった。セクション1でダンパーが抜けて車が本来の調子ではなくなってしまった中で、ドライバーががんばった。北大自動車部がダンパーを調達してくれた。
テキスト&写真提供:JRCA